
注目経済におけるInfoFiのジレンマ
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注目経済におけるInfoFiのジレンマ
InfoFiは新たな経済構造を設計・運営する上での重要な実験である。
執筆:Jay Jo、Tiger Research
翻訳:AididiaoJP、Foresight News
TL;DR
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InfoFiは、ユーザーの注目と活動を定量化し、報酬と結びつける体系的な試みである。
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現時点でのInfoFiには、コンテンツ品質の低下や報酬の集中化といった構造的問題が存在する。
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これらはInfoFiモデル自体の限界というより、評価基準や報酬配分の設計課題であり、改善が急務である。
注目こそがトークンとなる時代
注目は現代産業において最も希少なリソースの一つとなった。インターネット時代における情報の氾濫に対し、人間が情報を処理できる能力は極めて限定的である。この希少性ゆえに、企業間でユーザーの注目を巡る激しい競争が繰り広げられており、ユーザーの注目を獲得する力は企業のコア競争力となっている。
暗号資産(クリプト)業界では、この注目をめぐる競争がさらに極端な形で表れている。トークンの価格形成や流動性の創出において、注目の占有度は重要な役割を果たしており、プロジェクトの成否を左右する決定的な要因ともなっている。技術的に優れたプロジェクトであっても、市場の注目を集めることができなければ、しばしば市場から淘汰されてしまう。
この現象は、クリプト市場の構造的特徴に由来している。ユーザーは単なる参加者ではなく、同時に投資家でもあるため、彼らの注目は直接的にトークンの購入行動へとつながり、需要とネットワーク効果を生み出す。注目が集まる場所に流動性が生まれ、その上でストーリー(ナラティブ)が形成されていく。こうした既存のナラティブはさらなる注目を引き寄せ、好循環を生み出し、市場を牽引していくのである。
InfoFi:注目をトークン化する体系的試み
市場は注目度に基づいて機能している。この構造が提起するのは、「誰がその注目から真に利益を得るべきか」という根本的な問いである。ユーザーはコミュニティ活動やコンテンツ制作を通じて注目を生み出しているが、こうした貢献は測定が難しく、明確な直接的な報酬メカニズムもない。これまで、一般のユーザーが得られるのはトークンの売買による間接的な利益だけであった。つまり、注目を実際に創出した貢献者に対して、まだ何の報酬も与えられていないのである。

KaitoのInfoFiネットワーク、出典:Kaito
InfoFiは、こうした問題への解決策として登場した。InfoFiは「情報(Info)」と「金融(Fi)」を融合させ、ユーザーが生成したコンテンツに対する注目(例:閲覧数、コメント数、シェア数)に基づいて貢献度を評価し、それをトークン報酬と連動させる仕組みを構築した。Kaitoの成功により、この構造は広く普及した。
KaitoはAIアルゴリズムを用いて、投稿やコメントなどのソーシャルメディア上の活動を評価する。プラットフォームはそのスコアに基づき、トークン報酬を提供する。ユーザーが生成したコンテンツが多くの注目を集めれば、プロジェクトはより大きな露出を得ることができる。資本はこうした注目を一種のシグナルと捉え、投資判断の材料とする。注目が高まれば、さらに多くの資本が流入し、参加者の報酬も増加する。参加者、プロジェクト、資本が「注目データ」を媒介として協働することで、好循環が生まれるのである。
InfoFiモデルは、以下の3つの重要な領域で顕著な貢献をしている。
第一に、評価基準が不明確だったユーザーの貢献活動を定量化した点である。ポイント制により、貢献内容を体系的に定義可能となり、特定の行動によってどのような報酬が得られるかをユーザーが予測できるようになった。これにより、ユーザー参加の持続性と一貫性が向上した。
第二に、抽象的な概念だった「注目」を、定量化・取引可能なデータへと変換したことである。ユーザーの参加は、単なる消費行動から生産的活動へと転換された。従来のオンライン参加の多くは投資やコンテンツ共有であり、プラットフォームはそれによって生じる注目から利益を得ていた。一方、InfoFiでは、ユーザーがそのコンテンツに対して示す市場反応を定量化し、それに基づいて報酬を支払うことで、参加者の行動を「生産的な労働」として位置づけている。この変化により、ユーザーは単なるコミュニティメンバーではなく、ネットワークの価値創造者としての役割を担うことになった。
第三に、情報生成のハードルを下げた点である。過去にはTwitterの大物インフルエンサーや機関アカウントが情報発信を支配し、大部分の注目と報酬を占めていたが、現在では一般ユーザーも一定の市場注目を得ることで、実質的な報酬を受け取れるようになった。これは、異なる背景を持つユーザーにとって、より多くの参加機会を創出したといえる。
InfoFiが引き起こす注目経済の落とし穴
InfoFiモデルは、クリプト業界における新たな報酬設計の実験であり、ユーザーの貢献を定量化し報酬と結びつけるものである。しかし、注目自体が過度に中心化された価値となっており、その副作用が次第に明らかになってきた。
一つ目の問題は、過剰な注目競争とコンテンツ品質の低下である。注目が報酬の基準となると、コンテンツ作成の目的は「情報を提供する」「意味のある議論を促す」ことから、「報酬を得るため」へと変質してしまう。さらに、ジェネレーティブAIの進化によりコンテンツ作成が容易になり、本質的な情報や洞察を持たない大量のコンテンツが急速に拡散している。「AIスロップ(AI slop)」と呼ばれるこうしたコンテンツがエコシステム全体に蔓延し、懸念を呼んでいる。

Loud Mechanism、出典:Loud
Loudプロジェクトは、こうした傾向を明確に示している。Loudは注目をトークン化しようとしたプラットフォームで、特定の期間内に最も多くの注目を集めた上位ユーザーに報酬を分配する仕組みを採用した。この設計は実験的には興味深いが、注目が唯一の報酬基準となったことで、ユーザー間の競争が過熱し、低品質で繰り返しの多いコンテンツが大量に生成された。その結果、コミュニティ内のコンテンツが均質化する現象が生じてしまった。

出典:Kaito Mindshare
二つ目の問題は、報酬の集中化である。注目に基づく報酬は、特定のプロジェクトやテーマに偏りやすく、他のプロジェクトのコンテンツは事実上市場から消えたり、露出が減少したりする。Kaitoの共有データはこれを明確に示している。Loudはかつて、Twitter上の暗号関連コンテンツの70%以上を占め、エコシステム内の情報流通を支配していた。報酬が注目に依存する限り、コンテンツの多様性は低下し、情報は高額なトークン報酬を提供するプロジェクトを中心に回るようになる。最終的には、マーケティング予算の規模がエコシステム内での影響力を決定づけることになる。
InfoFiの構造的課題:評価と分配
4.1 注目評価の単純化手法の限界
注目中心の報酬構造は根本的な問いを提起する。「コンテンツをどう評価すべきか?」「報酬をどう分配すべきか?」現在のほとんどのInfoFiプラットフォームは、閲覧数、いいね、コメント数といった単純な指標に基づいてコンテンツ価値を判断している。この構造は「高いエンゲージメント=良いコンテンツ」という仮定を前提としている。
確かに高いエンゲージメントを持つコンテンツは、情報品質や伝達効果が高い可能性がある。しかし、この構造は極めて高品質なコンテンツにのみ有効であり、大多数の中~下位層のコンテンツにとっては、フィードバックの量と質の関係が不明確である。その結果、繰り返しのフォーマットや過度にポジティブな内容が高評価を受けやすくなる一方で、多様な視点を提示したり新しいテーマに挑戦したりするコンテンツは正当な評価を得にくくなっている。
これらの問題を解決するには、より洗練されたコンテンツ品質評価システムが必要である。単純なエンゲージメントに基づく評価基準は固定化されがちだが、コンテンツの価値は時間や状況によって変化する。例えば、AIを使って意義のあるコンテンツを識別することも可能だし、コミュニティベースのアルゴリズム調整手法の導入も考えられる。後者は、定期的に収集したユーザーのフィードバックデータに基づき、アルゴリズムが評価基準を動的に調整するもので、評価体系が柔軟に対応できるように支援する。
4.2 報酬構造の集中度とバランスの必要性
コンテンツ評価の限界は、報酬構造の問題と相まって、情報フローの歪みを助長している。現在のInfoFiエコシステムでは、通常各プロジェクトが独自のランキングを運営し、自社トークンで報酬を支払っている。このような構造では、マーケティング予算の大きいプロジェクトがより多くのコンテンツを惹きつけ、ユーザーの注目も特定のプロジェクトに集中しやすい。
こうした問題を解決するには、報酬分配構造の見直しが必要である。各プロジェクトが独自の報酬を維持しつつ、プラットフォーム側がコンテンツの集中度をリアルタイムで監視し、プラットフォームトークンで調整を行う方法が考えられる。例えば、特定のプロジェクトにコンテンツが過度に集中している場合、そのプロジェクトへのプラットフォームトークン報酬を一時的に減らし、逆にカバレッジが低いテーマには追加のプラットフォーム報酬を与える。複数のプロジェクトを横断するコンテンツにもボーナス報酬を与えることで、多様なテーマや視点が育まれる環境を創出できる。
評価と分配は、InfoFi構造の核心を成す。コンテンツをどう評価するかがエコシステムの情報フローを決定し、誰がどのような報酬を得るかも極めて重要である。現在の構造は、単一基準の評価体系とマーケティング主導の報酬構造が組み合わさり、注目の支配性を加速させると同時に、情報の多様性を損なっている。持続可能な運用には評価基準の柔軟性が不可欠であり、分配構造のバランス調整もInfoFiエコシステムが直面する重要な課題である。
おわりに
InfoFiの体系的実験は、注目を定量化し経済的価値に変換することで、従来の一方向的なコンテンツ消費構造を、生産者中心の参加型経済へと転換しようとする画期的な取り組みである。その意義は計り知れない。しかし現在のInfoFiエコシステムは、注目のトークン化プロセスの中で、コンテンツ品質の低下や情報フローの歪みといった構造的副作用に直面している。これらはむしろモデル自体の限界というよりも、初期設計段階で避けられない試行錯誤の過程にあると考えるべきだろう。
単純なフィードバックに基づく評価モデルはその限界を露呈しており、マーケティングリソースに左右される報酬構造も問題を浮き彫りにしている。今まさに求められているのは、コンテンツ品質を正しく評価できるシステムの構築であり、コミュニティベースのアルゴリズム調整メカニズムや、プラットフォームレベルでのバランス調整メカニズムの導入である。InfoFiは、メンバーが情報の生成・流通に参加することで公正な報酬を得られるエコシステムの構築を目指している。この目標を達成するには、技術的改良だけでなく、コミュニティ参加による設計プロセスの促進も不可欠である。
クリプトエコシステムにおいて、注目はまさにトークンのように機能している。InfoFiは、新たな経済構造の設計と運用に関する重要な実験である。それが、価値ある情報と洞察が共有される構造へと進化したとき、その潜在力は真に発揮されるだろう。この実験の成果は、デジタル時代における情報の定量化経済の発展を大きく加速させるはずである。
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