
マスクと彼の「アメリカ大選」ビジネス戦略
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マスクと彼の「アメリカ大選」ビジネス戦略
莫大な資金を投じた裏で、マスクとトランプの因縁。
執筆:陀螺財経

今回の米大統領選挙が過去と何が違うかと問われれば、普段から饒舌な元大統領トランプは数々の不満を口にするだろう。相手候補の急な変更、選挙資金の不利、さらには暗殺未遂事件などだ。だが、この選挙で最も感謝している人物を尋ねられれば、「マスク」は間違いなくトランプの答えの一つとなるはずだ。
今度の選挙戦において、マスクは意外にも明確にトランプ支持を表明した。第3四半期には7500万ドルもの巨額な選挙資金を投じてその決意を示し、SNS上でも積極的に支持を呼びかけた。ついには国民投票運動の一環として宝くじキャンペーンまで展開している。人的支援も資金面も、マスクの貢献はまさに「全力投球」と言ってよい。
しかし、極めて影響力がありながらも論争を呼ぶ企業家が、このような明確な支持姿勢を取るのは賢明とは言えない。勝敗が定まらない選挙戦では、わずかな誤算が党勢の大波乱を招きかねず、落選した側が直面するのは政治的失墜だけでなく、時には身の安全すら脅かされる可能性がある。
数年前に戻れば、マスクとトランプの関係はむしろ冷淡だった。両者の言い争いはしばしばSNS上で繰り広げられ、トランプはかつてマスクに対し「ホワイトハウスで補助金を求めて跪けばいい」と皮肉ったほどである。いったい何が、マスクをして一転してこれほどまでに情熱的な支援へと駆り立てたのか?
危険なほど不安定な大統領選の裏で、金と権力の取引が密かに進行していたのである。
01 声援と資金:マスクがトランプに注ぎ込んだ巨費
最近、トランプは演説の中でこう語った。「私はイーロンに電話をかけた。彼は最高のサポートをしてくれた」と。大統領候補からこのような感謝の言葉をもらうだけあって、マスクの支援も並外れたものだった。
資金面での強力な支援としては、7月に明確にトランプ支持を表明して以降、マスクの行動はまさに「巨費を投じる」と形容できる。連邦選挙委員会が公表したデータによると、第3四半期にマスクはトランプ支持の政治行動委員会(America PAC)に7500万ドルを寄付した。これは市場予想よりもやや低く、当初噂された月4500万ドルという数字には届かないものの、金額総額としては、トランプの堅実な支持者でありカジノ王女アデルソン(9500万ドル寄付)に次ぐ最大級の個人寄付者となった。
単純に資金面だけで見れば、マスクの支援はまさに「雪中の炭」であった。今回の選挙戦で、トランプは資金調達に長らく苦戦していたのだ。
実際、民主党は今年も従来の優位を維持しており、むしろ候補者が途中交代したことで、資金集めに一段と団結した形だ。7月末に民主党の代表となって以来、ハリスはすでに10億ドルを調達済みであり、第3四半期だけで6億3300万ドルを集めている。これはトランプ陣営が同期間に調達した金額の4倍に相当する。
表面的には平静を装っているトランプだが、裏では強い不満を抱いている。『ニューヨーク・タイムズ』によると、9月の寄付者向け晩餐会でトランプは「支援者たちにもっと多く、もっと賞賛され、助けられるべきだ」と直接訴えた。このような場で発せられた言葉の意味は明らかだ。資金調達に関しては、トランプ自身もあらゆる手段を駆使しており、党大会のチケット販売、暗号資産プロジェクトの資金調達など、あらゆるチャネルを活用している。支持者への圧力をかけることも欠かさない。4月には、大手石油・ガス会社に10億ドルの資金提供を要求し、7月には主要支持者アデルソンに2億5000万ドルの寄付を要請する短信を送った。
とはいえ、大統領選にとって資金はあくまで最も目立つ要素であり、いくら巨額であっても勝利を保証するわけではない。資金以外にも、マスクが提供した「支援」は無視できない。
まず、Xという巨大な世論プラットフォームを掌握し、2億人のフォロワーを持つマスクが支持を表明しただけでも、十分な煽動力がある。8月には、自ら主催するスペースインタビュー番組でトランプに登場させ、100万人以上が同時視聴する中、選挙戦の第一弾を打ち上げた。トランプもこれを機にXとの関係修復を進め、これまで通りの公共プロパガンダ戦略を再開した。以降、両者の関係はますます親密になり、宣伝面での連携も円滑になった。

マスクのXアカウントには2億人のフォロワーがいる(出典:X)
10月に入り、トランプはペンシルベニア州バトラー市へ戻り、選挙集会を開催。マスクも招待され、MEGAの帽子を被り、ステージ上で上半身裸で応援演説を行った。そこで彼はトランプの「男らしさ」を称え、二人の好関係が象徴される一幕となった。
そして最近、マスクはさらに大胆な策を打ち出した。ペンシルベニア州では、請願活動に参加した有権者の中から毎日1人を抽選し、100万ドルを無償贈呈するキャンペーンを開始した。この請願活動はマスクが設立した「アメリカ政治行動委員会」がオンラインで主催したもので、「言論の自由」と「銃所持権」の擁護を訴える内容だ。ルールによれば、10月19日から11月5日の大統領選当日まで、ペンシルベニア、アリゾナ、ジョージア、ミシガン、ネバダ、ノースカロライナ、ウィスコンシンの7つの「スイングステート」の住民が署名すれば、毎日1回100万ドル獲得のチャンスがある。初日3日間はペンシルベニア州限定だったが、その後は7州すべての住民が対象となった。
以前には、ペンシルベニア州の有権者に対して「請願に参加で100ドル、紹介1人ごとに追加100ドル」という報酬制度を導入していたが、他のスイングステートでは47ドルだった。新規ユーザーの獲得だけでなく、リファラルによる拡散も意識しており、マスクがインターネット運営の本質を熟知していることがうかがえる。一見するとただの請願活動に見えるが、言論の自由と銃所持権の保護を掲げつつ、実際にはトランプ支持層の動員が目的であり、最終的にはトランプへの投票促進が狙いであることは明らかだ。
言うまでもなく、どの国であれ「金で票を買う」行為は法的リスクを伴う。宝くじ形式で包装されていても、有権者に対する報酬提供は禁則に抵触する恐れがある。ペンシルベニア州知事のジョシュ・シャピロは、当局がこの件を注意深く監視すべきだと指摘している。それでもマスクの宝くじキャンペーンは続行されており、すでに2人の当選者が誕生している。
「君子、危うきに近寄らず」という格言があるが、マスクの一連の行動はそれとは真逆だ。法的リスクを冒してまで票を獲得しようとし、巨額の資金を投入し、また頻繁に公の場で他候補を「操り人形」と批判している。今回の選挙戦にマスクが注ぎ込んだものはあまりに大きい。
02 対立から蜜月へ:マスクとトランプの愛憎劇
では一体、トランプにはどのような魅力があり、マスクをここまで尽くさせるのか?
2017年にトランプが大統領に就任した当時、両者の関係は比較的良好だった。トランプはマスクをホワイトハウスのビジネス顧問に任命することも検討した。しかし協力関係は半年も続かず、トランプがパリ気候協定からの離脱を決定したことをきっかけに、マスクはそれがテスラのクリーンエネルギー推進に障害になると判断し、袂を分かってしまった。
その後、技術革新と移民政策の象徴的存在として、マスクは徐々に民主党寄りになっていき、トランプとの関係は凍結状態に。両者はSNS上で何度も激しくやり合った。2022年、マスクはトランプに対して「辞任すべきだ」と断言。これに対しトランプも反撃し、「彼はホワイトハウスに来て、EVや事故の多い自動運転車、行き場のないロケットといった補助金頼みのプロジェクトのために俺の支援を頼んだ。補助金がなければ、マスクは何の価値もない」と返した。
さらにトランプはこうも言った。「当時彼は“自分はトランプの忠実なファンで共和党支持者だ”と私に告げた。もし私が“跪け”と言えば、彼は本当に跪いたことだろう」。まだ気が済まなかったのか、マスクが隣に立ち、笑顔を浮かべる写真まで添えて、皮肉を強調した。

大人の世界には永遠の敵などいない。それからまだ2年も経たないうちに、両者は再び蜜月時代を迎えた。その理由について、マスクはインタビューで「現在の民主党の政策と価値観が自分と合わない。多民族主義の推進が米国の分裂を加速させている」と述べた。マスク自身に多少のポピュリズム傾向と強権崇拝の性格があることを考えれば、この説明にも一理ある。しかし、これだけの大転換を理念だけで説明するのは難しい。核心にあるのは一点——「利益」である。
まずマスクと民主党の関係悪化の原因から見るべきだろう。当初マスクがバイデンを支持したのは、再生可能エネルギーの推進と電気自動車の支援という約束があったためだ。確かに政策は進められたが、バイデン政権はなぜかテスラを除外しようとする動きを見せた。2021年8月、バイデン政権は電気自動車サミットを開催し、行政命令を出して「2030年までに新車販売の半数をゼロエミッション車にする」と宣言した。ところが、このイベントにはゼネラルモーターズ、フォード、ストランティスが招待された一方、最大のEVメーカーであるテスラは招待されなかった。理由は、民主党の長年の同盟者である米国自動車労働者組合(UAW)がバイデン政権に圧力をかけていたためとされている。
ここに亀裂が生じた。その後、マスクの企業が成長するにつれ、富豪課税、労働組合への反対、企業規制などの問題で政府との対立が深まった。バイデン政権下で、テスラやスペースXなどマスク傘下の企業は少なくとも20件以上の調査・審査対象となり、関係はさらに悪化した。

マスクの企業は複数の米国規制機関から調査を受けている(出典:ニューヨーク・タイムズ)
一方、スペースXに注目すると、『ニューヨーク・タイムズ』の統計によれば、昨年だけで同社は17の米連邦機関と約100件の契約を結び、30億ドルの資金供与を受けており、政府はすでにスペースX最大のスポンサーとなっている。
だが先月、連邦航空局(FAA)はスペースXに対し63万3009ドルの罰金を科す手続きを開始した。フロリダ州での2度の打ち上げが許可条件に違反し、安全性を損なったのが理由だ。最近のスターシップ試験飛行でも、野生動物保護への懸念からFAAが数週間の遅延を命じている。さらに、米司法省はスペースXを提訴し、「難民や庇護申請者を国籍に基づいて雇用拒否している」と非難した。
規制だけでなく、補助金の取得も難しくなっている。スペースXが農村地域にインターネット衛星サービスを提供するために申請していた8億8600万ドルの連邦資金について、連邦通信委員会(FCC)は都市部でもサービスを提供しているとして、交付を取り消した。
テスラも同様に、米国高速道路交通安全局(NHTSA)から5件の調査を受けている。これには「自律走行」モードでの突然のブレーキ作動、ステアリング制御の喪失、衝突事故などが含まれる。
これらに対し、マスクは長年不満を募らせ、「政治的迫害」を受けていると感じていた。2022年には米国の規制当局を「クソ野郎ども」と酷評している。個人的な出来事も大きな要因となった。息子の性転換問題を通じて、マスクは民主党のイデオロギーが極端すぎると感じるようになり、これが引き金となってカリフォルニア州との決別、そしてX買収へとつながった。こうした一連の出来事を経て、マスクは次第に共和党に接近し、2024年7月13日に正式にトランプ支持を表明した。
03 支持の裏側:金と権力の密約
トランプを支持する背景には、当然両者間の合意がある。
注目すべきは、マスクと同盟を結んだ後、トランプは電気自動車支持を表明するなど態度を軟化させたが、それ以前は決してEV推進派ではなかった。この影響で、環境保護を重視するリベラル層からはテスラへのボイコットが広がっている。カリフォルニア州新車ディーラー協会のデータによれば、米国最大のEV市場であるカリフォルニア州で、テスラの第2四半期の販売台数は17%減少した。

では、トランプは一体何を約束したのか? マスクがリスクを冒してまで支持し続ける動機とは何か?
そこに浮上してきたのが、「政府効率化部門」という存在だ。8月12日、トランプとマスクの対談で、トランプは「もし大統領になれば、マスクに政府内で役職を与えるかもしれない」と発言した。数日後、マスクはXにAI生成画像を投稿し、「Department of Government Efficiency(政府効率化省)」と記載したが、当時はネットミーム(MEME)の一種としか見なされていなかった。
9月5日、トランプは再びこの話題に触れ、「マスクの提案を採用し、実際に彼が率いる『政府効率化委員会』を設立する」と宣言した。トランプは委員会の具体的な運営方法を説明しなかったが、「連邦政府全体の財務および業績監査を行い、支出削減のための改革提言を行う」と述べた。10月18日、マスク自身もこの計画を明らかにし、「企業のように運営され、納税者のお金をより効率的に使うとともに、支出担当部署を合理化する」と語った。
一見すると外部の専門家を導入して透明性を高め、資金効率を向上させる措置に見えるが、最終的な支出承認は議会が握っており、マスクがコスト削減の実績を持っている点を考えれば、確かに適任とも言える。しかし、この委員会の権限をよく見ると、連邦政府のすべてのプロジェクトに対して「削減」を提言できる可能性があり、事務手続きの簡素化も担うと考えられる。つまり、実質的に規制機関の「監督」機能を代行することになる。マスクは長年にわたり高額な補助金を得てきた連邦契約業者であり、利害関係の衝突が生じるリスクは極めて高い。
例えば、スペースXはかつて声明で「ロケット打ち上げのための政府許可申請書類の準備にかかる時間は、実際のハードウェアの設計・製造よりも長い」と述べたことがある。このような状況下で、「効率化部門」が規制緩和を「提言」することは公正と言えるだろうか? さらに、マスクが競合他社や政府の契約支出を削減する能力を持てば、自社の利益を大幅に増やすことができるのではないか?
もちろん、委員会の具体的な運営方法はまだ明らかになっていないが、そこに潜む利益相反の構造は明白だ。ではなぜトランプはマスクを選んだのか? その理由も簡単だ。前回の任期中、トランプは政治的新人であり、ヒラリーのスキャンダルによって建制派が自保のために支持を寄せたものの、その後の「アメリカ・ファースト」政策の乱暴さにより、グローバル化から恩恵を受ける建制派はすぐに距離を置き、政策運営に大きな支障をきたした。
今回、トランプはその教訓を活かし、自分の意向に合う政党作りを進めている。副大統領候補には若く、コントロールしやすいペンスを選んだ。同じ商人であり、性格も似ており、影響力も大きいマスクを選ぶのも自然な流れだ。逆にマスクにとっても、根強く閉鎖的で、かつ自身が冷遇されてきた民主党よりも、政治的素人であるトランプ陣営の方が重要視されやすく、自らの政治的キャリアを伸ばすチャンスが大きい。両者は互いに必要としており、結果として市場の目に映るのは「対立」から「蜜月」への変貌である。
しかし、この仲良し関係は他方にとっては深刻な脅威でもある。マスクは公の場で繰り返し、「政治に関わりたくない」と語っている。しかし、それは「やむを得ない選択」なのだという。民主党が政権を取れば、自身の人身安全が脅かされ、暗殺の可能性さえ高くなるとまで言及している。世論プラットフォームを買収し、公然と支持を表明しているマスクに政治的野心がないかどうかは断言できないが、敗北した場合の投獄リスクは現実味を帯びており、そうなればスペースX、テスラ、ニューラリンク、Xといったマスクの誇る商業帝国全体が大きな打撃を受けるだろう。だからこそ、マスクはあえて公の場で暗殺のリスクを強調することで、民主党に「手出しはできまい」と牽制しているのかもしれない。これは同時に、自身を守るための重要な戦略でもある。
ちなみに、資産2500億ドルのマスクだが、大量の現金を保有しているわけではなく、株式が主な資産である。テスラの株式はその60%を占めており、今回の選挙寄付やプロモーション費用は、マスクにとっても決して軽い出費ではない。
結局のところ、これほどの人的・物的資源を費やすのは、今回の選挙がマスクにとって「成功か破滅か」の瀬戸際だからに他ならない。
幸い、トランプは今のところ健闘している。最新の世論調査ではハリスが46%、トランプが43%とややリードされているが、スイングステートではトランプの支持率が明確に回復している。10月21日時点で、9つのスイングステートのうち8州でトランプがリードしている。また、ギャンブル市場ではトランプの勝利確率が57.9%に達し、ハリスの40.8%を大きく上回っている。暗号資産の予測市場では、ハリスに約30ポイントもの差をつけている。データの推移を見る限り、トランプの当選はもはや時間の問題かもしれない。これに呼応して暗号市場も反応し、BTCは6万6000ドルを突破、DOGEも注目を浴びている。
もちろん、最後の結果が出るまでは何が起こるか分からないが、確かなのは、マスクとトランプという「利益共同体」が、完全に同じ船に乗り合わせたということだ。
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